【要約】

  • ティール組織は全く新しいパラダイムである
  • 既に日本で活動しているティール組織が存在する
  • ティール組織への旅は、共に学び育ちながら、前進することである

【本文】

ティール組織という本、本屋さんで平積みされています。手に取り、内容を確認したことのある方も多くいらっしゃるかと思います。「ビジネス書大賞2019経営者賞」などの賞を受賞しているらしいです。

このブログでは、ティール組織とファシリテーションの関係について、私の考えを書きたいと思います。
私は、組織論者ではありませんし、ティール組織について説明することはいたしません。
言い換えると、当ブログの読者の方々は、ティール組織を読んだことがある、あるいは理解しているということを前提にしています。「ちょっと待ってよ。あんな600ページ近い本を読めって言うの?」との声が聞こえてきそうです。「そのとおりです」と言い切ってしまうのも手ですが、私の経験を踏まえて、下をお勧めさせていただきたいと思います。

  1. 参照資料1:書籍 ティール組織 フレデリック・ラルー (Frederic Laloux) 著 ISBN978-4-86276-226-9
  2. 参照資料2:書籍 [イラスト解説] ティール組織 フレデリック・ラルー著 ISBN978-4-297-10257-9
  3. 参照資料3:ウェブサイト REINVENTING ORGANIZATIONS (https://www.reinventingorganizations.com/)

私は、1, 2, 3の順で読みました。1はなかなか理解するのが難しかったです。だいたい1.5回くらい読まないと私は理解できませんでした。私が今まで生きてきたパラダイムと違うことが書いてあるので。
2は、1を読んだ後で読むと、文字を読まなくてもイラストだけでも十分に理解でき、理解を深めてくれました。
3は全てを見たわけではないのですが、ビデオ含め内容が濃いです。

「要点を短時間で把握するには?」との声も聞こえてきそうです。3の中に入っている、このビデオはとてもわかりやすいです。フレデリック・ラルーが語っているので、言語は英語ですが、日本語字幕が秀逸です。視聴時間は、Q&A含めて、1時間40分くらいです。
上の「このビデオ」のリンクから視聴できますが、一応辿り方も。RESOURCES! → Watch&Listen → 一番上の"A talk about "Reinventing Organizations", followed by Q&A with the audience."のビデオです。

私がティール組織を読んだ理由

まず最初に、私がティール組織を読んだ理由を書きます。こうすることで、何故私が当ブログを書いているのかを感じていただけるかもしれないと思ったからです。

ハイ・パフォーマンス・カルチャーを追求し続けることの違和感

ハイ・パフォーマンス・カルチャーは、最大の結果(利益・生産性)を得るために、計画を作成し、計画通りに事が進んでいるのかをチェックし、必要な対応をとること、と言えるかと思います。多くの企業が、このパラダイムにあるかと思います。私は、長年会社員として働いてきました。近年は、「昨年より今年はもっと」「今年より来年はもっと」ということに、違和感を感じていました。端的に言うと「そんなに成長し続けなくっちゃいけないのかなぁ」という漠然とした違和感です。

参照資料1の序章「新しい組織モデルの出現」を読んで、私の違和感に対して何かが書かれているようだ、と思った事が、読み進む動機を与えてくれました。

オレンジ組織の負の側面

書籍から、私が気になった文章(私の違和感に関係している文章)をいくつか引用させていただきます。

  • なんとなく、みんな気がついていることがあります。今日の組織運営方法が、もはや機能していないのです。(参照資料2)
  • 成長のために成長を求めるという段階に来てしまった。これは医学用語では単純に癌と呼ばれる状況である。(参照資料1)
  • 成功がお金と名誉に関してだけに限定されてしまったことです。(参照資料2)

ビュートゾルフ (BUUTZORG) は既に日本で営業している

参照資料で、ティール組織の成功例として取り上げられているオランダ発祥の訪問看護サービス「ビュートゾルフ」が、既に日本で営業しています。
参照資料1を読み進める中、「日本にはティール組織ってないだろうなぁ」と思いながらネット検索していたら、あったのです。実際に既に日本に入ってきているという事実には正直驚きました。「セントケア ビュートゾルフ」で検索すると結果がリストされます。
因みに、セントケアは、介護サービスを全国規模で展開している会社で、私の母はセントケアのケアマネージャーさんのお世話になっています。気さくで優秀な方です。
そして、グループ会社の、ちいき・ケア株式会社という会社がビュートゾルフ型訪問看護事業を行い、ビュートゾルフサービスジャパン株式会社がビュートゾルフ型訪問看護事業所の開業・運営支援を行っているそうです。
介護サービスの領域から、訪問看護サービスの領域に、ビジネスを広げているようです。

フレデリック・ラルーはファシリテーターであること

著者のフレデリック・ラルー (Frederic Laloux) は、マッキンゼーで10年以上にわたり組織改革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立した人だそうです。
ファシリテーターとしてティール組織にどう関わるべきなのか、何かのヒントを得られるかもしれない。こう思ったことも、読んだ理由の1つです。

私の観点からティール組織をまとめてみる

今は、多くの企業がオレンジ組織か、オレンジ+グリーンの組織だと思っています。これを前提に、私の観点からティール組織をまとめてみます。

目指すものが違う

多くの企業は、最大の成果をあげることを目指していると思います。そのために、生産性を高め利益を上げることを目指す。

ビュートゾルフが、ティールになる前オレンジだった頃は、看護師たちを「管理」するために、白い看護師の服を着たことのないマネージャーが、看護師の行動を分単位にモニターし、マネージャーの視点で「改良点」を見つけ、該当する看護師に「改善点」を指摘していたそうです。本には明記されていませんが、マネージャーは、最も大切なステークホルダーである、実際に訪問看護サービスを受ける人たちの声を聴くことなしに、「改良点」を考えてしまったのかもしれないと、私は思います。結果、患者は嫌がった。そして、看護師も嫌がったそうです。「私がなりたかった仕事なのに、今、私はロボットになってしまった」と。

ティールになったビュートゾルフが目指したものは、「患者さんができるだけ豊かで自主的な生活を送るのを手助けすること」だそうです。明確で崇高な存在目的です。以前は、機械のようにロボットのように分刻みで、注射したり、圧縮ストッキングを替えて、ろくに会話もせずに、次の患者のところに飛んでいっていっていたのに、ティールあとは、お茶を飲みながら話をして様子を見る時間ができたそうです。
ビュートゾルフにとって、20%, 50%, 80%のどの市場占有率に達成するかは、そんなに重要では無いそうです。
競争相手にも、ビュートゾルフが行ってきたことを、無償で共有し、時に指導しているそうです。何故?目指しているものは、「患者さんができるだけ豊かで自主的な生活を送るのを手助けすること」なので、目的の達成を手助けする人は、友人や盟友であって、競争相手ではない。そういう世界観だそうです。

結果として、看護時間は減り、救急病院への搬送も減り、オランダの社会保障制度コストを削減したそうです。
詳しくは、参照資料2の58ページから69ページをご覧ください。

求められる人財が違う

ティール組織はピラミッド型の組織構造ではなく、◯◯長(係長、課長、部長、事業部長など長の付く役職)が存在しない組織だそうです。管理者がいないということです。管理する人と管理される人という関係がない。言い換えると、管理しなければならないような人はいない。管理しないとサボる、不正を働く、何か組織にとって不都合なことをする。そんな人はいない、そういう組織だそうです。(対外的目的のために社長は長が付きますが存在するらしいです)

〇〇長は、組織を去るか、管理以外の仕事をするかを選択する必要があるそうです。
また、いわゆる指示待ち族の従業員は、ティール組織では居る場所がないと言えそうです。
つまり、求められる人財がオレンジの時代と異なるので、変わらなければならない、と言えます。
この変化を受け入れることのできる企業は少ないのではないか、と私は思います。
一方で、ビュートゾルフは日本に既に入ってきています。
私は、新規に開業した企業や、いったん廃業の危機に直面して復活を目指す企業の方が、ティール組織を受け入れやすいような気がしています。

従業員の採用プロセスも変わります。そもそも人事部が無いのです。採用プロセスは今よりも慎重に時間をかけて、自分たちのチームに入ってこれる人か?自分たちはこの人とやっていけるのか?この人は自分たちと一緒に働きたいのか?丁寧に対応するそうです。また、入社後の、いわゆるオンボーディング・プロセスには、自社の存在目的、大切にしている文化などを、府に落ちるまで時間をかけて説明するそうです。自分たちのティール組織に必要な人財を見極め、大切に育てる、という感じなのだと私は理解しました。

ティール組織に求められる人財になる・共に育つためには、共に学び育つ精神が必要だと思います。

助言プロセスがキーポイント

ティール組織では、オレンジ組織に比べて、会議の数がぐっと減るそうです。
何かのアイデアを思いついて実現したいときには、良く知っている人に助言を求めなくてはならないそうです。(「助言を求めても良い」のではなく「求めなければならない」)
1対1で行ったり、必要な人を召集して会議を開いたり、社内SNSを使ったりするそうです。

この助言プロセスがうまく機能する事がキーポイントの1つだと思います。
そのために必要なスキルを、誠実に共に学び共に育つような文化を、育む事が大切になると思います。

ティール組織とファシリテーション

ここでは、ティール組織においてファシリテーションは必要なのか?必要だとしたら、どのような場面で使われるのか?を考えてみます。

助言プロセスはソフトスキルを駆使しないと機能しない

助言プロセスを機能させるためには、自分の考えを伝えるスキル、相手の助言を聴いて(必要に応じて訊いて)理解し議論するスキル、助言を求める人と助言する人の仲に入って話し合いを促進するスキル、等々ソフトスキルを駆使しないと機能しない、と私は思います。

ソフトスキルとは、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディングなどのスキルです。

また、ソフトスキルを駆使する上では話をわかりやすくまとめ伝えるフレームワークなど、適宜フレームワークを選んで使えるスキルも必須でしょう。

これらのスキルを、共に学び、共に育つ事が大切になる、と私は考えています。
ですので、ティール組織においても、ファシリテーションは必要だと考えます。
これらのスキルを獲得していただくために、私を使っていただくという選択肢があります。

価値観の違い

オレンジ組織は、社内の地位が上がることに価値を見出す人が多いと思います。ピラミッド構造の上の方を目指すことに価値がある。

ティール組織は、自分の能力を高めること、仲間から正当な評価を得ることに価値を置く人が多いそうです。
貢献度や評判、そこから生まれる信頼に価値があり、地位や役職の価値はそれより低いそうです。

これは、他の人との共感を大切にし、信頼を大切にし、必要なものを自分で身につけようとするスキル志向の、ミレニアル世代の人たちの価値観に近いような気がします。

助言プロセスをとおして、信頼が生まれるそうです。ためになる助言ができる人は貢献による信頼を得る事ができて、評判が上がるのでしょう。逆に、そうで無い人は助言を求められる事が減るそうです。
結構厳しいものがあるのかもしれませんが、競争の世界ではなく、共に学び共に育つ協働の世界らしいです。「らしいです」ではなくて、そこを目指すべきなのでしょう、と書くべきなのでしょうね。

ティール組織への旅

参照資料3のサイトで、フレデリック・ラルーは、ティール組織への旅 (journey) という言葉を使っています。
いわゆるベスト・プラクティスはありません。自分たちで考えて、学び育ち、前進する事が必要だといっています。

フレデリック・ラルーは、ティール組織の運営を自転車の運転に例えています。自転車を運転するとき、小石を踏んでバランスを崩すかもしれないし、脇道からクルマが飛び出して来るかもしれないし、それでもなんとか進みますよね。私はこの話を読んだ時に、アジャイルな運営をイメージしました。

一例です。ビュートゾルフは訪問看護をする会社です。お年寄りが倒れて腰を痛める事故について、原因をビュートゾルフのあるチームが考え始めたそうです。腰を手術すると、必ずしも以前の状態に回復するとは限りません。そこで、転倒防止の手立てを考えたそうです。そして、依頼者のお年寄りの家に作業療法士と担当の看護師が訪問し、生活習慣の変更や家のリノベーションをアドバイスしたそうです。彼らは、この試みのプログラムに満足したそうです。そしてビュートゾルフのCEOのヨス・デ・ブロックに、ビュートゾルフの存在目的に、事故予防アドバイスが必要だ、と進言したそうです。ヨス・デ・ブロックが取った行動は、このチームに下記の助言をしただけだったそうです。
「君たちで、この成功話を短く魅力的に、社内のブログに載せてみないか?」
「他のチームが、どんな反応をするか見てみよう!できたら、そのプログラムの始め方をまとめて、書いてくれないかな。そうすれば、別のチームもやってみることができるから。」
そして多くのチームが、このプログラムを称賛し、ビュートゾルフ+(ビュートゾルフ+予防)と呼ばれるようになったそうです。そして、事故防止の分野でも仕事を始めるようになったそうです。

アインシュタインの有名な言葉の1つに、「どんな問題も、それをつくり出したときの意識レベルのままでは解決できない (We cannot solve our problems with the same thinking we used when we created them)」があります。私はこの言葉が好きです。フレデリック・ラルーは、参照資料1の中で、このアインシュタインの言葉を参照する形で「もしこれが真実ならば、現代の危機的状況(地球温暖化、人口増加、天然資源の枯渇、生態系の崩壊)は、現代の思考様式に従って作られた組織では解決できないことになる。持続可能な未来を達成できるかどうかは、私たちが現在よりもはるかに強力な解決策を見つけ出せる、ということを信じられるかどうかかもしれないのだ。」といっています。

私はティール組織に所属した事がありません。私は、オレンジ組織と、オレンジ+グリーン組織(例えば11月ごろに八百屋やスーパーに並ぶ早生のみかんのような色の組織)に所属した経験しかありません。でも、「人と人が議論し合意形成をする、この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにすること」すなわち、意思疎通を助言プロセスを「気持ちよくサクっと」できる人になるよう、ファシリテーターとして支援させていただくことは可能です。また、私の今までの経験が何かのお役に立てるかもしれません。お客様と共に、ティール組織への旅をしていく事ができたら面白そうだな、と私は思っています。

『人間性を仕事に呼び込む』から一部抜粋(2020年2月29日追記)

新型コロナウイルスの流行が懸念されていることから、小中高などの学校を3月の第一登校日から4月の始業まで休みにすることを総理大臣が要請しました。これを受けて、親が家以外で仕事をしている人たちは、子供の預け先に困ってしまうことになりました。一部の企業は、親が子供を連れて出勤しても良いという対策を打ち出しました。

参照資料1の第II部-第4章の『全体性を取り戻すための努力』内の節『人間性を仕事に呼び込む』(242ページ)から一部抜粋します。理由は、きっかけは新型コロナウイルスですが、同じようなことが一部の日本の企業でも起きる可能性があるかもしれない、と思うからです。2020年2月29日時点では混乱している状況なのですが、さてどうなることでしょう。

アウトドア用アパレル・メーカーのパタゴニアにも、同じようなことが起こった。カリフォルニア州ベントゥーラで、同社は従業員向けに「子ども発育センター」を運営している。対象は生後数ヶ月の幼児から幼稚園児まで。子どもたちの笑い声とおしゃべりが、日常の生活音としてオフィスまで届いてくる。外の遊び場ではしゃぐ子ども、親のデスクにやってくる子ども、カフェテリアでのランチタイムに親と食事をしにくる子供など、色んな場所から声が届く。ミーティング中に母親が我が子の面倒を見ていることも珍しくない。人々がお互いを同僚としてだけでなく、幼い子どもたちへの深い愛情と思いやりを示す人として見るようになると、職場の人間関係も微妙に、しかし根底から変化する。同僚たちがランチを食べながら赤ん坊と遊んでいる様子を見ただけで、ミーティングのときに互いに激しく非難し合うことはかなり難しくなる。(中略)私は不思議に思うのだ。こうした当たり前のことが異常に思えるほど、職場と自分が切り離されてしまったのか?動物や子どもに接すると、気が散って仕事ができないのではないかと言う人はもちろんいる。しかし、私はもっと深いものが作用していると考えるようになった。私たちは、ほんの一部でも本来の自分自身の姿で職場に来ると、ある種の「安心感」を得るのだ。赤ん坊や動物を職場につれていくという考えを最初は好きになれないかもしれない。なぜなら、子どもやペットが身近にいると、自分の普段とは全く違う側面、つまり愛情が深く思いやりがあるという面を同僚たちに見せずにいることが、あまりにも難しいからだ。

2020年10月15日の日経電子版記事『100年企業もティール組織 階層なくし自主性促す』(2020年10月15日追記)

2020年10月15日の日経電子版に『100年企業もティール組織 階層なくし自主性促す』という記事が載りました。

事例として3社、中西金属工業(https://www.nkc-j.co.jp/news/#news-3)、木村石鹸工業(https://www.kimurasoap.co.jp/)、大都(https://www.daitotools.com/)が載っていました。

記事を読んで感じたことは、「従業員が自律しているようだ」ということです。

特に印象に残った文章は、中西金属工業のの中西社長の下記の言葉。

「ピラミッド型の組織の上にいる経験値を持っている人の判断が一番正しいというのはなくなった」

「全員が情報を持てる時代なのでそれぞれの責任で意思決定の権限を与え、これまでにないような挑戦をしてもらう方がいい」

これを実現するために、厳格な秩序とルールを明文化した、という点も見逃せません。

三菱総合研究所の奥村隆一主席研究員の下記のコメントも共感します。

「工場労働者の管理を原型とする上意下達や時間管理などの手法は知識労働社会化が進む中で限界にきている」

人材関連事業の アトラエ(https://atrae.co.jp/) の新居佳英最高経営責任者(CEO)のコメントも見逃せませんね。

「指示命令なしで動く当社の社員はコロナ禍でもなんら変わらず、パフォーマンスが落ちたり、生産性が下がったりといった問題もない」

 

 

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