【要約】

  • お客様体験(CX)に加えて、従業員体験(Employee Experience、EX)を向上している企業は生産性が向上している。
  • 従業員体験(EX)を向上させるためには、より従業員間のコミュニケーション(意思疎通して相互に作用し合うこと)に焦点を当てることが大切だと言われている。会社の会議(人が集まって議論し合意形成する行為)においても、良好なコミュニケーションは重要である。
  • 良好なコミュニケーションを築くために、研究され実績のある手法がある。大型類人猿分類、ソーシャル・スタイル、交流分析を説明する。

【本文】

今従業員体験 (Employee Experience:EX) に焦点が当たっている

お客様体験 (Customer Experience、CXと略される) という言葉をご存知ですか?
お客様が商品やサービスを購入する前、購入するとき、利用しているとき、利用した後に体験する一連の体験のことです。
商品やサービス自体がお客様に与える価値や体験に加えて、商品やサービスを提供する企業とのあらゆる機会で、お客様を理解しよう・理解したい、という考え方です。
何故、お客様体験に焦点が当たっているのかというと、「自分たちは、まだまだお客様のことが理解できていないよね。マズイんじゃない?」という気持ちだと私は思っています。

お客様を自社の商品やサービスに惹きつけ収益を上げる。このために、お客様志向でCXを大切に考えている企業は多いと思います。一方自社の従業員についてはどうですか?海外の事例では、CXに加えて従業員体験 (Employee Experience、EXと略される) を向上している企業は生産性が向上しているそうです。

優秀な人を惹き付けたい、働き続けて欲しい、生産性を上げたい、そのためにEXを向上すべく努力しているそうです。

EXは、従業員が働くことを通じて得られる体験といえます。
従業員にとって、目的が明確に理解できる仕事が求められている時代が来ている、と私は思います。
自らの仕事の価値を知ることを望んでおり、その要望が満たされる職場で働きたい、という人が増えているそうです。お客様を理解する。自分の仕事が、お客様の体験にどんな価値を提供しているのかを理解している・理解したい。言われたことを言われたまま実行するような単純な労働ではない。こんな感じの欲求なのだ、と私は思います。

働きやすい職場環境、毎日仕事するのが楽しくなるような環境。そんな環境で仕事ができたら良いですよね。ギスギスした職場、個人の生活を犠牲にするような職場(例:子供のお迎えに行く時間なのに会議が終わらなくて遅れて行った)、は良くない。

従業員が元気でないと、良いCXをお届けすることは無理です。マクドナルドは、お客様を笑顔で迎えるようにしているそうです。引きつった笑顔の店には行きたくないですよね。
ということは、従業員が楽しくやりがいを持って働く環境であること、が必要です。東京ディズニーランドも同様です。

従業員体験(EX)を向上させるためには、より従業員間のコミュニケーション(意思疎通して相互に作用し合うこと)に焦点を当てることが大切だと言われています。リーダーとの間、先輩との間、後輩との間、チームメンバーとの間、など職場でのコミュニケーションです。良好なコミュニケーションは従業員の働きがい向上に寄与します。

会社の会議はどうでしょう。人が集まって議論し合意形成する行為は、コミュニケーションですよね。
会社の会議における良好なコミュニケーションとは何か?何を意識すべきなのか?ファシリテーターは何をすべきなのか?
私はファシリテーターとして、ファシリテーションを中核とするコンサルティング業を営んでおりますので、会議やワークショップに参加する方々の、人間関係・コミュニケーションに関わるストレスは、できるだけ少なくしたいと考えています。
このブログでは、この辺りのことを、次の3つの視点で書いていきます。

  • 大型類人猿分類
  • ソーシャル・スタイル
  • 交流分析

なお、EXに似た言葉に従業員エンゲージメントがあります。ウィキペディアによれば、従業員エンゲージメントは1990年代に管理理論の概念として登場し、今日ではEX (従業員体験) と同義語になったとあります。このブログでは、EXという言葉を使います。

大型類人猿分類

エブリイという企業をご存知でしょうか?広島県を中心に、スーパーマーケットを中核とした事業を行なっている企業です。2018年6月期の決算報告まで18期連続で増収している優良企業です。

エブリイでは、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボと、従業員を大型類人猿4タイプに分類。仕事の割り振り、チームの活性化、採用や人事異動に、この類人猿性格分類を活用しているそうです。自分を知って磨きをかけることで人間力をアップさせ、相手を知って理解することにより仲間をつくり、イキイキと働く店舗づくりに成功したそうです。4つのタイプが1つの森に住んで個性を活かし合えるのが人間の社会と考えているそうです。

エブリイでは、4つのタイプの大型類人猿について、下のように分類しています。

  • オランウータンタイプ:職人気質のこだわり屋
    ・長所:論理的思考、1つのことを極める集中力
    ・短所:理屈っぽい、感情を出さない
  • ゴリラタイプ:平和主義の安定志向
    ・長所:準備力、ルーチンワーク、縁の下の力持ち
    ・短所:自己主張しない
  • チンパンジータイプ:勝ち負け重視の積極派
    ・長所:新規開拓、社交性
    ・短所:攻撃的、飽き性
  • ボノボタイプ:空気が読める話好き
    ・長所:思いやり能力
    ・短所:感情的な判断、依存的

「類人猿分類公式マニュアル2.0 人間関係に必要な知恵はすべて類人猿に学んだ」という書籍に、次のようなコミュニケーション例が載っています。

  • チンパンジー店長:(ワナワナしながら)ボノちゃん、ここはプロの仕事場なんだ!「みんな仲良く」なんてなまやさしい!とにかく人を蹴落としてでもNO.1になるんだ。
  • ボノボ従業員:この人の元では働けないわ!

類人猿性格分類を実践し、お互いの長所短所を理解すると、次のようなコミュニケーションに変わるといいます。

  • チンパンジー店長:(ニコニコしながら)ボノちゃん、センスのいいPOPを作ってくれてありがとう。お客様の心にヒットするいいキャッチコピーだったよ!さすがボノちゃん!
  • ボノボ従業員:このお店で仕事ができて嬉しいわ!

どうですか?あなたは何タイプでしょうか?

なお、ひとりの人がどこかのタイプになるか、というとそんな単純ではありません。
私は研修に出たことがあります。その研修の冒頭で、診断チェックリストを用いてタイプ診断をしました。合計20点で、私は、ボノボ2点、チンパンジー6点、ゴリラ5点、オランウータン7点でした。もしかすると、生まれつき持っている性格はオランウータンで、社会生活を営んでいく上で後天的にチンパンジーとゴリラが備わったのかもしれません。ボノボも少し。私は、あるときはチンパンジー、あるときはオランウータン、またあるときはゴリラ、そしてごくたまにボノボ、みたいな人なのかもしれません。
タイプ診断は、簡易的なものが http://yakan-hiko.com/gather/ で提供されていますので、ご興味のある方はどうぞ。

相手のタイプを意識して話をすることで、EXの向上に役立つと思います。
「相手のタイプを意識する」というのは、見たり聞いたりして理解するのは簡単ですが、実際に実行するのは簡単ではありません。研修を受けたり、ファシリテーターが率先してチームのみんなを練習に参加してもらう必要があると思います。

参照URL: https://www.super-every.co.jp/challenge/005.html

ソーシャル・スタイル

大型類人猿分類に似たものに、ソーシャル・スタイル (Social Style) というものがあります。

大型類人猿分類はエブリイが開発した日本産です。
一方、ソーシャル・スタイルは、1968年にアメリカで生まれた概念で、産業心理学者のディビット・メリルとロジャー・リードによって提唱されたものです。
ソーシャル・スタイルでは、下のように4つのタイプに分類しています。

  • アナリティカル
    観察を好む分析型
    ・長所:論理的で無口。思慮深く時間を使って、全ての事実やデータを評価することに時間を使う。
    ・短所:無口で打ち解けにくく、よそよそしい。
  • エミアブル
    みんなの気持ちをくみ取れる調停役
    ・長所:思いやりがあり、おおらかで愛想が良い。人とうまくやっていける。
    ・短所:時間に無頓着。リスクを取りたがらない。必要な対立であっても避けてしまう。
  • ドライビング
    合理的に仕事を進める目標達成型
    ・長所:決断力があり結果を重視する。効率よくこなす。
    ・短所:強引で親しみを感じにくい。気難しい。プロセスよりも結果。
  • エクスプレッシブ
    みんなから注目されることを好む感覚派
    ・長所:話好きで楽しく親しみやすく、明るくて表情も豊か。ノリが良く、積極的に何かにチャレンジしている。
    ・短所:事実に基づかずにリスクを取りやすい。対話や会議を支配することがある。否定的な感情を表に出す。

ここでも、相手のタイプを意識して話をすることで、EXの向上に役立つと思います。
「相手のタイプを意識する」というのは、見たり聞いたりして理解するのは簡単ですが、実際に実行するのは簡単ではありません。大型類人猿分類と同じく、研修を受けたり、ファシリテーターが率先してチームのみんなを練習に参加してもらう必要があると思います。

大型類人猿分類とソーシャル・スタイルと両方を使えるようにならなくてもOKだ、と私は思います。
欧米の人と、会議参加者についてタイプを話すのであれば、ソーシャル・スタイルを使う方が良いと思います。彼らの多くはソーシャル・スタイルを知っているからです。大型類人猿分類を人に説明出来るくらいに理解しているのであれば、大型類人猿分類を話のネタにするのは面白いかもしれません。
どちらか一方を理解して、相手のタイプを意識できるようなチームになることができれば、会議でもワークショップでも、コミュニケーションの円滑さ、という観点ではうまくいく可能性が高まります。

参照URL: https://tracom.com/social-style-training/model , https://www.wowcom.co.jp/blog/839

交流分析

交流分析とは、人と人との交流を分析して、より良いスムーズな交流ができるようにするものです。

創始者はアメリカのエリック・バーン博士で、1950年代半ばに開発されました。
英語では、Transactional Analysis(トランザクショナル・アナリシス)といいます。

自我状態

自我状態とは、今の自分がどんな状態にあるのか、考え方、感情、態度、行動の様式を分類するものです。

大きくは、下記のP、A、Cの3つに分類されます。

  • P:親のような私(Parent、ペアレント)
  • A:成人のような私(Adult、アダルト)
  • C:子供のような私(Child、チャイルド)

さらに、PとCについては各々を2つに細分して、下記の5つに分類します。

  • CP:批判的P(Critical Parent、クリティカル・ペアレント)
    育ててくれた人の考え方を受け継いだ部分。
    プラスの側面:道徳的、価値基準を持つ、礼儀正しい
    マイナスの側面:頑固、偏見を持つ、支配的
    言動例:
    ・どんな理由があろうと規則は規則なんだから、しかるべき責任はとるべきだ。
    ・俺の目の色が黒いうちは、誰にもそんなことはさせん!
    ・君にはそういう服装をしてもらいたくないね。それを着ると女らしさがなくなるから。
  • NP:保護的P(Nurturing Parent、ナーチャーリング・ペアレント)
    育ててくれた人から受け継いだ養育的心情や保護的行動様式。
    プラスの側面:愛情深い、やさしい、配慮する
    マイナスの側面:過保護、教育ママ的、おせっかい
    言動例:
    ・きみ、あんまり無理しないでくれよな。きみは会社にとって、かけがえのない人なんだからね。
    ・あいつ、叱られてばかりいて、かわいそうで見てられないよ。
    ・さあ、本当のことを打ち明けてごらんなさい。決して、悪いようにはしないから。
  • A:成人(Adult、アダルト)
    状況を客観的に見て対処する部分。
    プラスの側面:論理的、事実に基づく、冷静な判断
    マイナスの側面:打算的、冷たい、人間味がない
    言動例:
    ・賛否両論を聞いてみよう。
    ・相手側の真意がどんなものか、もう少し探ってみてください。
    ・どうやってそこへ行く予定ですか?
  • FC:自由なC(Free Child、フリー・チャイルド)
    生まれたままの自由な子供らしさ、直感力、その人本来の部分。
    プラスの側面:天真爛漫、明るい、直感的、エネルギッシュ
    マイナスの側面:わがまま、自己中心的、衝動的
    言動例:
    ・わあ、すごい!
    ・カッコイイ!
    ・あなたはとても美しい。僕はあなたが好きだ。
  • AC:順応したC(Adapted Child、アダプテッド・チャイルド)
    しつけに順応して、または保護者の意図に沿う過程で身に付けた部分。
    プラスの側面:素直、従順、協調的
    マイナスの側面:依存的、自分を責める、反抗、すねる、頑固、偏見を持つ、支配的
    言動例:
    ・比較的簡単に妥協や同意をする態度。
    ・精神的に萎縮したり、閉鎖的な態度。
    ・くってかかったり、かみつく態度。

相手との交流をスムーズにするためには、相手の自我状態が5つのうちのどれなのかを把握できるようになると良いですね。

交流パターン

ここでは、下記3つの交流パターンをみていきます。

  • スムーズな交流(相補的交流)
  • ゆきちがいの交流(交叉的交流)
  • 裏のある交流(裏面的交流)

スムーズな交流(相補的交流)

下図をご覧ください。スムーズな交流例です。矢印が並行になっていることに注目してください。

ゆきちがいの交流

下図をご覧ください。ゆきちがいの交流の例です。矢印が交叉していることに注目してください。

相手に発信した言葉に対して、予想外の反応が帰ってきたり、あるいは自分の方が相手の気持ちを裏切る反応をすることがあります。
電車に忘れ物をした男女の会話では、CPが相手のACに鋭く切り込んでいます。
部下が上司に進言する例では、部下は上司のAの冷静な判断を求めたのですが、予想に反して、上司は自分のCPから部下のACに切り込んで来たという例になっています。

裏のある交流

下図をご覧ください。裏のある交流の例です。

私たちは言いたいことをストレートに言葉に出すとは限りません。
表面では一見合理的なメッセージを発信しているように見えて、その裏に、異なった目的や動機を隠し持っている場合があります。これを裏のある交流といいます。

特色の1つは、ほとんどの場合、相手のP、A、Cの2つに向けて、同時に異なるメッセージを送っていることです。
患者から医者に遠回しの依頼の例では、医者のAとPに同時に送っています。
妻から夫への皮肉めいた交流の例では、夫のAとCに同時に送っています。

ビジネスの場面での活用例

交流分析をビジネスに活用する例をご紹介しましょう。

  • 上司(CP)頼んでおいたデータ分析の件、どうなってる?
  • 部下(AC)すみません。忙しくて忘れてました。
  • 上司(CP)まだ、手付かずか。何がそんなに忙しいんだ?
  • 部下(AC)要領が悪くて、すみません。よその課から頼まれた急ぎの仕事を先にやっていて...どうもすみません。
  • 上司(CP)きみ、すみません、すみませんばかり言っていては困るんだよ。
  • 部下(AC)ええ、でも本当にすみません。
  • 上司(A) 仕方がないな。その急ぎの仕事はいつ終わる予定ですか?
  • 部下(A) そうですね。今の仕事は5時までには終わると思います。
  • 上司(A) それからすぐにデータ分析を始めるとして、いつ終わるか見通しを立ててください。
  • 部下(A) 3時間集中すればできますので、明日の午前中には終わります。もし、今日中ということなら残業して終わらせますが...

CPとACのやりとりが続き、上司がAとAのやりとりに変えたことに着目してください。
仕事上の会話で、やりとりが凍結してしまう場合があります。この例では、CPとACのやりとりが凍結した状態です。生産性が悪いというか、時間ばかり浪費してしまっています。
この状態から抜け出すために、A(成人、アダルト)の自我状態を活用してみると良い場合があります。

これがうまく機能するためには、交流分析の基本を理解し、自我状態を把握できるようになっていることが求められます。
私BTFコンサルティングでは、会社の会議をより良いものに変革するために、ファシリテーターが使うツール(手法)として、交流分析のワークショップを開催することも行っております。

参考書籍:交流分析のすすめ(杉田峰康著)ISBN978-4-8210-7504-1

 

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